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最近のお気に入りです。

神戸新聞
6年一組 森田学級 8

森田学級には、
三十八人目の教え子がいた
五、六年と続けて担任だった
花実ちゃんのおばあちゃん
敏子さん(70)だ
五年の春
初参観は国語の授業だった
音読の楽しさを学ばせようと
先生は、教科書に載っていない詩を教材に使った

題名は「(蚊)」

わてはだす
かるいかるい
だす
かぼそい声でなく
だす
はおきらいでっか
かみつきちをすう
だす

児童たちが順番に読むのを聞くうち
足が少し不自由な敏子さんは
三階にたどり着くまでの苦労を忘れて吹き出した
詩の続きが頭に浮かんできた
家に帰ると、その続きを便せんに書き留めた
翌日
「先生に渡して」と
少し嫌がる花実ちゃんに手紙を託した
先生は「すてきな詩」と
早速、クラスで紹介した

あんさんだすか
かぼそい声ゆうても
夜中にブーンと耳のそばでなかれるとうるそおまっせ
血吸わんでもたまご産んで子ども育てる虫
ぎょうさんいてますやろ
血にかわるもん考えなはれ
相談のりまっせ


松尾台小に赴任して一カ月足らず
「少し気負いがあった」
という先生の硬さがほぐれていった
敏子さんは二年間で、十通程度を先生に出した
六年生の授業参観の後には、
「楽しい授業で寿命が延びました」
と書いた
手紙がクラスで読まれると
みんなは
「いいおばあちゃんやなぁ」
とうらやましがった
花実ちゃんは照れたが
ときには
「いいやろー」
と自慢することもあった

敏子さんは幼いころ体が弱く
小学三、四年はほとんど通学できなかった
花実ちゃんの卒業前
最後の手紙には
「卒業アルバムには載っていない生徒より」
と題して
こう書いた
「孫と一緒に小学生活が楽しめるなんて。
先生、アリガトウ、サヨナラ、サヨウナラァー」
さて、敏子さんの詩には続きがある
こんどは児童が考えた

生きるためにはしょうがないんだす
血すうてすんまへん
血すうの命がけなんでっせ
たたかれたり
かとりせんこうたかれたり
オスは血をすわんだす
だけどなーんで家の中に入ってきただけやのに
たたきころされるんやろなー